あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
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人生アポロ13号(今を生きること)
 この2010年の夏は、ゲーム『メタルマックス3』の発売に加え、執筆の修羅場や記録的猛暑による夏バテもあり、記事内容が連載マンガとゲーム一辺倒ぎみだったこの「あつじ屋日記」ですが
 久々に少し生きるテーマとかいささか形而上テーマとか書いていきたいと思っています。


 いったいどう生きれば自分は(そして人は)幸せに一生を過ごせるか、ということをシビアに突き詰め始めたのは、40代も半ばになってからでした。それまでも考えてはいましたが、どうしても目先の刺激にとらわれて、今ひとつ踏み込めなかったです。
 近年の自分の生き方を言い表すいい言葉はないかと思っていましたが、今年になって思い浮かんだのは
 
「人生アポロ13号」(笑)。


 多くの方がご存知のことと思いますが、その手の話題に興味がないとおっしゃる方のためにポイントだけ申し上げますと、アメリカが人類を月探検に送り込んでいたアポロ計画で、13号はその事故によってひときわ有名です。
 1970年、月に向かって飛行中の宇宙船で爆発事故が発生、着陸どころか生還も危ぶまれ、地球の管制センターと乗組員が知恵と力をあわせて、無事帰還を果たし「栄光ある失敗」などとも呼ばれているそうです。


 私は、人の一生はあの13号の乗組員のようなものではないかと思うのです。

 人それぞれ人生の夢や目標がありますが(ないとおっしゃる方もおいででしょうが、それでも日々、あれを食べようとか、トイレに行こうとか、植物状態でない限りは何かあるでしょう)すべてがかなう人はいません。
 むしろ人生は、しばしば挫折の連続です。
 スケジュールは狂い、仕事を失ったり試験に落ちたりするものです。
 私の場合、かなりの年月、「夢は壊れるためにあるのか」とさえ思っていました。幼いころの夢を果たしてマンガ家になった人間が?と奇妙に思われる方もおいででしょうが、大変だったのはなってからの方で、思っていたのと大違い。それは苦難の連続でした。


 アポロ13号の場合、月に降りて調査するのが目的だったでしょうから、それができなくなったことは大いなる失敗です。しかし、その旅は無意味だったでしょうか。私はそうは思いません。
 後進に多大な教訓を残しただけでなく、乗組員はじめ、それに関わった多くの人びとに進歩、成長をもたらしたと思います。
 結果がすべてではない、と言うか、自分が望んだイメージと異なる結果であっても、けして無意味ではないし絶望することもないということです。

 そして肝心なのは、爆発事故が発生してからの対応です。
 彼らは(女性乗組員がいたなら「彼女ら」もです♪当時はいませんでしたが)できることを全力でしました。
 「過去に落ち込まず」「未来に絶望せず」「できることを全力でし」ました。

 人はしばしば過去と未来にとらわれて、今を失い、過去を無駄にし、そして未来を失います
「こんな事故を起こすようなロケットを作りやがって」
 と怒り泣きわめいて責任者や関係者の悪口を言ったり責めたりしても、事態は何も解決しません。
 そんな暇があったら解決に向けてできることをする。
 自分たちをそんな船に乗せた地球のスタッフとも知恵と力をあわせてやれることをする。
 ほかにどんな道があったでしょうか。

「このままだと生きては戻れないかもしれない」
「オレの人生はおしまいだ」
 などと嘆いて、今を浪費しませんでした。落ち込んだり、ふさぎこんで、時間を無駄にはしませんでした(一時的にはあったでしょうけど)。
 ほかにどんな道があったでしょうか。

 そもそも爆発事故そのものが想定外のことだったわけで、そのあとの対応にしても絶対に生きて帰れる保証はなかったでしょう(またどんな想定外のことがないとも限りません)。
 不安にかられたり、絶望する素材にはことかかなかったでしょうが、彼らはそこに逃げ込みませんでした。

 「今を生きる」というと、無計画な刹那主義を連想される方もおられますが、そういう非建設的な「今」ではなく、きちんと現実と向き合い、知恵をめぐらせて今できることと取り組むことです。


 ではその結果が失敗だったらどうするのか。努力しても、やはり生還できなかったらどうするのか。
 別にいいじゃないかというのが、近年の私の心境です。
 なぜなら「今を犠牲にして生き」てはいないからです。
 多くの人が、未来のために今を犠牲にします。将来何かいい目を見るために今を失って生き、それが美徳とさえされています。
 私は欲張りなので、そんなことはしません。
 無論、仕事で机に縛り付けられていて、得られないものは数多くあります。素敵な青空も見られなかったり、友人との集まりにも行けません。
 でもそれがなんでしょうか。生きている限り果たさなければいけない勤めはあり、それを果たすのは自分の意思です。嫌ならやめればいいだけです。
 私の場合、やめれば収入がなくなって路頭に迷ってのたれ死にですが、それが嫌で仕事を選んでいるのもまた自分の意思です。誰の選んだ人生でもありません。自分で選んでいる以上文句はありません。改善したいところは改善を目指します。

 以前友人の女性マンガ家が、小学生のお嬢さんから
「ママ、お金は(働いたことの)オマケよ、オマケ」
 と言われたという話を書いたかと思いますが♪
 まあ、そうだと思います。
 ギャラがないと生きられませんし、それは正当な報酬ですが、別の意味での報酬は日々自分がどう生きたかで得ています。
 ケダモノのように(と言うとケダモノに失礼ですね。人として多くを見失って、と言うべきでしょうか)きょうを生きた人は、そういう「きょう」を過ごしたこと自体が報酬であり、持てる能力を十全に生かしてきょうを生きた人は、そう生きられたことがすでに報酬だと思います。
 人は時々刻々、今をどう生きたかの報酬を得ているのであり、その視点から見るとき、人生になんの不公正もありません(不当な差別を受けたり、得られるべき支払いを得られないといった類の「不公正」は社会に常にあります。それはきちんと取り組むべき別の問題です)。

 自分は未熟で失敗も多い不完全な人間だが、そのできる範囲で誠実に生きる。いたらない点はおわびします。できる限り改善をはかります。
 ほかになにができるでしょうか。


 だから、私はネットも実生活もふくめて、人の愚痴の輪、悪口の輪には一切関わりません(若いころはそれに加わることが楽しかった時期もあります。それは一つの通過地点でした)。
 そんな暇はないからです。
 将来を恐れたり嘆く輪にも加わりません。そんな暇はないからです。
 問題を認識し解決する方法を考え合うことであれば参加します。

 自分をアポロ13号の乗組員に置き換えるとわかりやすいのではないでしょうか。
 誰を恨むことも責めることも無意味です。できることをするだけです。
 過去を悔やんだり罪悪感にとらわれるのも無意味です。問題解決のための材料にするための反省と分析はあっても、そこに自虐はありません。
 今を悲しむこともありません(心身ともにしんどいことやトラブルはあります。でもそこに溺れません)。
 未来を恐れることもありません。
 そんなことで、自分はもう人生を無駄にはしません。

 何か無理してるように感じられる方もおられるでしょうが、私にとってはそれが一番楽なのです。無理のない生き方なのです。
「地球に戻れるかどうか」は「お金がオマケ」なのと同様、オマケの結果に過ぎません。
 生きるか死ぬかはどうでもいいのです(誰か殺しにくれば抵抗しますが)。
 「日払い」ならぬ「今払い」で私は「報酬」を受け取って(と言いますが、じつはその「報酬」という概念自体が一つの方便であり、もう少し視点を上げればどうでもいいこととも言えます)日々生きています。
 ほかに何ができるでしょうか。

 これは別に「不滅の真実」とかいった類のもではありませんし、守るべき何かの「教義」でもありません。
 無論誰かに押し付けるようなものでもなく、ただ、こういうスタイルもありますというのを、今可能な範囲で文章にしただけです。真実というのは言葉にできない、言葉を越えたところにあります。
 私のオリジナルでもなんでもなく、多くの先人がとうの昔に見出してきた道を、自分流に取り入れ、自分流に表現しただけです(「日の下に新しきものなし」でしょう(笑))。
 もっといい生き方があるなら、いつでもそちらに乗り換えます。
 しがみつくべき何物も、そこにはないからです。



 色々な方とお話させていただいていて、ややテーマが深いところに及んだ場合、どういう足場から考え話しているのかを明らかにしないと、話がかみ合わない場合があります。
 そこで簡単に整理して見ました。
 補足しないと意味が通らない部分もあるかと思いますが、そこはおいおいアップしていこうと思います。

 私は私と異なるすべての方のあり方を尊重し敬意を払いたいと思います。
 長文お読みくださりありがとうございました。
 きょうも良き日を♪
コメント
この記事へのコメント
感動しました
先生、こちらでははじめまして。
親子揃って『メタマ』命のマヨ芋といいます。
よろしくお願いします。

何だか、読んでいて
自分が恥ずかしい人間だと気付きました。

本当に、今を本気で生きているのか。仕事に全力を尽くしているのか。


…全然ダメです。

楽な方に逃げたり、
ごまかしたり。
将来、絶対後悔する生き方をしています。

しかし、明日からは、

いや、今から
全ての事に対しての考え方を改めていけそうな気がします。

やめられない
戦車の改造の様に、自分も改造しまくります!
ありがとうございました
2010/09/18(土) 19:18:33 | URL | マヨ芋 #z8LPLFJ2[ 編集]
ありがとうございます
>マヨ芋さま
 ようこそお越しくださいました♪
 何度も開発中止になって描いた絵が闇に葬られるゲーム業界に嫌気が差して、メタマだけでなくゲーム関係の仕事から身を引いた私でしたが、近年こういう心境になってましたんで
 ミヤ王氏からの昨年のメタマ3のオファーも、喜んでお受けしました。
 たとえまた中止になっても悔いはないと。
 今改めて、お受けしてよかったと思っています。
 制作スタッフにも、ファンの方にも心から感謝しております。
 駄文をお読みくださりありがとうございます。
 自分にはこれが一番気楽な生き方なんで(w
 共感していただける部分がありましたなら光栄です;
2010/09/18(土) 19:38:49 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
違います。
先生、この数日、『今』を大切にしてみたら、
すごくいいです!

何か、仕事や、会話の一つ一つが充実しているんです。
周りの人も気付くぐらい。

夜寝る時の満足感という物が、10年ぶりに感じられました…


先生が受けた、仕事での 悔しさ、無念さは
僕が想像する何万倍もあると思います。
頑張って考え、作り出し描いたたキャラが、
動く事もなく消えるなんて…。
辛いですよね。

僕、魚屋なんですけど、
作った
刺身の盛り合わせが半額でも 買ってもらえなかったら
悔しいですから(笑)
(次元が違う)


先生が考え、描いたキャラには、凄く強い存在感、魅力が感じられます。
たとえ、雑魚キャラだろうと、気になって何故か覚えてしまってるみたいな(笑)

僕も、
先生の描かれた漫画や、ゲームのキャラに負けないぐらいの、
存在感、魅力ある人間になってやろーと!

カルメンに惚れられる男になります!(笑)
ありがとうございました
2010/09/21(火) 00:22:04 | URL | マヨ芋 #z8LPLFJ2[ 編集]
光栄です
>マヨ芋さま
 ありがとうございます。
 そうなんですよ、今を十全に生きると世界観変わると思います。
 まれにですが、そこを出汁にして、妙なカルト宗教みたいなのを立ち上げちゃってる人もいるので注意しないといけないですが;
 自分の場合、過去と未来に意識を飛ばさず、今を十全に行き始めると、ああ自分ってこんなにいっぱい今を見落としてたんだ、今ってこんなに豊かだったんだ、みたいな発見がありました。
 私は近年、どう幸せに生きるか(環境とか才能に恵まれているかどうかに関係なく)を模索してきました。
 そこで依存心を起こして、変な教祖とかに頼ろうとすると「ハッピー教団のえじき」になりますが、人は誰に頼らなくても自分で勝手に幸せになることができると思います(障害とか生活苦とかいった問題で相談すべきはどんどんすべきです)。
 以前ミヤ王氏に、「オレのこの種の記事って君から見てどう思う?」って聞いたら
「よく書いてるとは思うがいつも同じこと書いてるよな」
 って(笑
 そうなんです、訴えたいことは一つなんですよね。
 勝手に幸せになってください、です。
 誰の手も借りることなく(無論私の手など借りることもなく)今おられるその場所で、です。
 昔から多くの聖賢が語ってきたことの共通項にそれはあって(詐欺師はそれを自分が発見したオリジナルでほかでは救われませんみたいなこと言うんですよね)、でもそれを調べるのってけっこう本代や手間と時間がかかるんで、勝手にまとめて語ってます(おせっかいです)(爆)(いや、まとめると言っても、コピペではなく、実生活で試して有意義と思ったことだけですが)
 先日のファミ通のメタマインタビューで語った、ガンで亡くなった友人のお医者さん(私やミヤ王を自衛隊の演習に招待してくれた)なんかも、今を生きて逝った好例だと思います。
 まわりに同情を求めたり、絶望して仕事を投げ出したりもせず、淡々と今をこなして逝っちゃった。
 亡くなってから間もなく、報告の電話をくださった奥様も、よくできた方で、いつもどおり優しい穏やかな口調で淡々と語っておられたのが、ああ、あの友にしてこの奥様ありだなあって感動しました。
 自分もそうして生きたいと思っています。

 お仕事がんばってください。ご自愛を♪
2010/09/21(火) 03:29:04 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
今晩は。記事、興味深く読ませて頂きました。アポロ13号は、正にある意味人生の縮図ですね。自分も、「もっと金持ちの家に生まれていれば」、「もっと美男(美女)に生まれていれば」、「もっと頭が良く生まれていれば」、なんて人生の無いものねだりをしていましたが、アポロ13号の場合は、まさに手持ちのアイテムで切り抜けなければ確実に死を迎える訳で、現実においても、アポロほどではないにしろ無い物ねだりをしているうちに不完全燃焼で人生を終えてしまいます。なんとか手持ちの非力なアイテムで人生を乗り切る決意をしたのはまだ最近の事ですね。
2010/09/21(火) 20:11:26 | URL | 間地出 外吉 #//IwUzE6[ 編集]
ほかに道はないですものねえ
>間地出さま
 長文お読みくださりありがとうございます。
 私も人生、色々ないものねだりをしていた時期が長かったですが
 してもちっとも幸せになりませんものねえ。
2010/09/22(水) 04:19:14 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
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