あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
201702<<12345678910111213141516171819202122232425262728293031>>201703
人生の異なる顔
 先日、ゲーム『メタルマックス3』の打ち合わせで、ゲームデザイナーの宮岡氏が、『メタルマックス2』を作った時の思い出として、冒頭主人公の育ての親代わりの女ソルジャー・マリアが死ぬシーンで
 敵役のテッド・ブロイラー(顔面傷跡だらけのモヒカンのマッチョ)が頭のモヒカンを飛ばして
「もひかーん・すらっがあー」
 などと叫んでいるシーンについて、ユーザーの方から
「ここは泣くシーンなんですか、笑うシーンなんですか」
 と質問をいただいたことがあった、と言っていました(笑)。

 実は私も、メタルマックスとは関係のない私のマンガで、似たような質問を読者の方からいただいたことがあります。
 その方は私の作品を昔から何本もお読みの方のようで、色々な作品を上げて、
 <主人公はハードボイルドなのに、周囲は何故かギャグだったり、どうも軸がぶれているというか、中途半端というか…>
 とおっしゃり
 <確かポンピーフーは、男主人公がたまさぶろうとかいう名前でしたよね?ハードならハードにやったほうがいいのでは?と思います。(中略)「アヌンガ」にしても、アンヌはよく描けていますが、男主人公が何か間の抜けた感じがするし(中略)モンスターデザインも笑ってしまうものがちらほらいます>
 <今、挿絵をされているイラスト(馳星周先生の小説『淡雪記』のこと/山本・注)は硬派な感じを受け、とてもかっこいいですね。先生は、今の絵柄でしたらギャグタッチをまったく入れないものの方がよいと思います>
 といった内容でした。ギャグならギャグに統一した方がいいのではと。
 ちゃんと礼儀を踏まえたメールでしたので、丁重にお返事をお返ししたのですが、要するに
「私(山本)はそれを意図して、自覚した上で描いています。それが私のスタイルなのです」
 と。

 私の若いころ大好きだったアメリカのマンガ家にリチャード・コーベンという人がいます。
 エアブラシの魔術師、ハイパーリアリズムの画法で、CGの存在しない時代に、写真と見まごうリアリティの絵で、SFやファンタシイのフルカラーマンガを描きまくっていた人ですが、リアルに描こうとすれば徹頭徹尾写真のように描ける腕を持ちながら、あえてデフォルメしたキャラで、時にはアホみたな顔のモンスターが主人公たちに襲い掛かってきたりして、それでちゃんと人が死に、悲劇も起こると言う作風でした。
 私はその人のスタイルが大好きで、多大な影響を受けました。
 以前も書いたことがありますが、私のマンガの照り返しの表現(強い日差しの下で、巨乳の乙女のバストの下側が、地面などからの反射光で陰の中に少し明るいところがあるような)は、彼のマンガから学んだものです。
 人によっては、なんでこのシビアなシーンで、こんなふざけた顔の怪物が出てくるんだ?とおっしゃる方もおいでです。そのお気持ちはわかります。人それぞれ感じ方は自由ですし、そのお気持ちになにも間違ったところはありません。

 ただ、私はかねがね思うのですが
 人生はどんなときにも、さまざまな顔を持つものです。
 悲劇の裏に喜劇があり、喜劇の裏に悲劇があります。
「禍福はあざなえる縄の如し(不幸と幸福は、一本のよりあわせた縄のようである)」
 という古い言葉がありますが、広い意味でも狭い意味でも、それは真実だと思います。
 甘いおしるこの中には、ひとつまみの塩が入っています。
 光と影は常に背中合わせです。

 身近なことを取り上げるなら、近年私は老眼で、手元のものが見えません。メガネをとったら、自分の手で持てる範囲の、新聞も本もいっさい読めません。遠くのものは見えますが(遠くのものに関しては視力は1.2で、裸眼でバイクも運転できます)焦点が合うほど離れると、今度は字が小さすぎて読めません。
 こんな私が、アクション映画の主人公のような立場に置かれ、今まさに爆発しようとしている時限爆弾のタイマー解除のパスワードの書かれたメモをゲットしたとします。やった!助かった!さあ打ち込もう!とメモを見ると、メガネが割れて読めないとしたら?
 手元にパスワードはある。打ち込めば助かる。でも打ち込めない。キーボードもメモも読めません。
 さあ、これは悲劇でしょうか喜劇でしょうか。
 無論、一つの命が失われるという意味では悲劇ですが、ある意味笑っちゃう(たぶん私は笑っちゃう)喜劇の側面があると思います。

 人生は、あらゆる局面でこういうことがあります。
 ある種の「被害者」的立場に置かれた人は、怒りや悲しみで、その喜劇的側面にまでは思いが及びませんが、他人事として見る事の出来る第三者は、その喜劇的側面にも目がいきます(それをうかつに指摘すると、不謹慎だとか言われて責められたり、TPOを間違えると、「荒らし」や「嫌がらせ」になりもします)。
 何年か前、私は手の指の不調(痛み)に襲われ、医者に行ったことがあります。
 母がリューマチだったこともあり、症状から見てリューマチに似ていたため、これはいよいよ自分もマンガ家として終わりかな、といささかショックを受けました。しかしその一方で、うれしくもありました。それは
「もう二度と、あの地獄の〆切に終われなくてもよくなる」
 ということでした。心のすみでほっとしました。
 マンガ家の暮らしはハードなもので、あの水木しげる先生が(戦争で片腕をなくされ、多くの戦友を亡くされた水木先生が)インタビューでマンガ家生活を振り返り
「戦争よりもひどかったですな」
 と、おしゃっておられたのが、その一つの証拠でしょう(笑)。
 私は人生をずっとマンガ家として生きてきた人間で、本当にマンガを描くことが好きですが、それでもマンガが描けなくなることに、ある種のやすらぎ、救済を感じる部分がありました。
 幸いその時の手の痛みはその後なくなり、病院の検査もシロでしたが、その時の思いは覚えています。

 また、別のとき、大変体調を崩し、このままだとマジ死ぬかもしれないので救急車を呼ぼうかどうしようかと悩んだこともありますが、そのときも、別に死への恐怖は感じませんでした。
 近年は、どこで死のうと、いつ死のうと悔いのないよう、日々を生きるようにしています。
 陰気に後ろ向きに生きるのでも、病的に明るく生きるのでもない(根拠のない希望も、軽はずみな絶望も持たない)ただ淡々と顔を上げて歩く、と言えばいいのでしょうか。
 だから、死ぬかもしれんなと思ったときも、このままここで死んだら、原稿が上がらなくて迷惑をかける編集さんやお客様に申し訳ないなとは思いましたが、自分が死ぬこと自体に、悲しみも怒りも感じませんでした。
 私は一生マンガを描いていたいほどマンガが好きですが、もうこのしんどい日々を終わらせられるなら、それはそれでハッピーじゃないかと思ったものです。
 完成目前で死んだマンガ家などというと、一般には悲劇として語られるでしょうが、私にとってはある種祝福でもあったのです(別に死んだらどこかの天国へ行くとかいうことを信じてるわけではありません、念のため)。

 ちょっと話が長くなりましたが、人生の悲劇と喜劇は、ことほどさように、簡単にどっちかに色分けできるものではありません。
 多くの人が色分けしたがり、色分けできると思っておいでなようでもありますが、私は物事の真実は、誰にも軽々しく決め付けられるものではないと思うものです。
 悲劇の顔をしてやってくる喜劇もあれば、幸せそうな顔をして訪れる不幸もある。
 人生はそういうものではないでしょうか。

 最初に引用した、私にメールをくださった方は、私のお返しした上記のような内容のメールに、丁重なお返事をくださいました。
 山本は、無自覚にあのような作風を続けているのではなく、ちゃんと理解し意図した上で行なっているということをご理解くださったようでした(感謝です)。

 宮岡氏と私は、その目指すところは色々異なりますが、ものごとをそうした多面体として捉え、表現したいと言う点では、何か共通したものがあるのかもしれません。
 ゲーム『メタルマックス』シリーズは、随所に、おふざけとシビアな内容がまぜこぜになっていますが、昔からのファンの方は、そこも納得した上でお付き合いくださっているのではないかと思います(御口に合わない方にはお詫び申し上げます)。
 ではでは
 きょうも良き日を♪
コメント
この記事へのコメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2010/06/29(火) 02:40:05 | | #[ 編集]
>2010/06/29(火) 02:40:05にコメントいただきました方へ
 興味深いお話ありがとうございます。
 前進するときも推力<ヨットは斜めに前からの風を受けて前に進みますよね。追い風じゃないからと諦めるのは人間の早合点。人生もそういうこと、ありますですね。
 立場<つい先日もお世話になった会社の方から、取引先の力のある会社から、感情的で一方的な圧力を受けて困っておられるという話を聞いたばかりです。すべての情報を知っているわけではないので、判断はしかねるのですが、聞いた限りでは立場を利用したイジメみたいな話で、お気の毒に思いました。
 世の中そんな話があちこちにありますね。
 せめで自分だけでも、そういう轍を踏まずに気持ちよく生きられればと思います。
 ご家族さまともどもご自愛くださいませ。
2010/07/01(木) 16:09:32 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する
copyright © 2004-2005 Powered By FC2ブログ allrights reserved.