あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
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古代ギリシャのイケメン部隊(『アナバシス』より)
『アナバシス』
 洋の東西を問わず、昔から古典はネタの宝庫です。
 私が人生で出会ったその種の本のベスト100(いや50とか30とかでもいいか)を作るとしたら、はずせない一冊がこれ

 『アナバシス-敵中横断6000キロ』 クセノポン・著/松平千秋・訳/岩波文庫

 ご存知の方もおいでしょうが、著者のクセノポンは紀元前400~300年代のギリシャ人で、プラトンとともにソクラテスに学んだ人。
 この本は、彼が傭兵として参加した対ペルシア戦争と、その後の6000kmに及ぶ敵中を抜けての脱出行のことを書いたもの。
 大変おもしろい読み物であると同時に、当時のギリシャや周辺の兵士と戦いぶり、その他様々なことを知るための、貴重な資料としても欠かせない一冊です(これが一冊わずか数百円で買えるのは絶対安い!!)。

 実は私が昔、『猟姫(リョウキ)ナジャ』という作品を描いた際、ヒロインの好敵手に投石器使いの男を出したのですが、彼の投石器に関するメインの資料となったものの一つがこの本でした(そもそもは、この本の巻末の訳者注にもあります<『別冊サイエンス(Scietific American 日本版)特集考古学、文明の遺産』(日本経済新聞社、1976,11,20)に収載の、M・コルフマン「古代の“ミサイル”-投石器(THE SLING AS A WEAPON)」>が最初の手がかりでした)。

 投石器と言うと、一般に知られるものとしては、有名な聖書の伝説、ゴリアテを倒したダビデのそれか、中米のインディオの人々が使うようなものしかなく、今一ドン臭い原始的兵器のように思われる方も少なくないでしょうが、どうして侮りがたいもので、当時は弓矢部隊よりも後ろに控える長射程で、大きなダメージを与える優秀な兵器でした。
 当時の医学マニュアルには、体内に食い込んだ投石を取り出す手術の方法もあったと言います。
 ま、それはさておき

 この本は、ほかにもおもしろいネタの宝庫でして
 きょうは、その中でも白眉の一つ。
 古代ギリシャのイケメン部隊の話をご紹介いたします。

 古代ギリシャに少年愛はじめ男性同士の同性愛があったことは有名ですが、現代のようなテンションでの蔑みや嫌悪の対象となるものではなく、それなりに認知されていたものでした。そもそもわが日本の昔、戦国武将などにも衆道があり、現代のようなタブー感が築かれたのは時代が下ってからのことです(もっとも、今は一時よりも薄れてきていますが)。
 さて『アナバシス』に、それに関する記述が出てくるのはほんのわずか1ページくらいなのですが、非常にわかりやすくコンパクトなエピソードとして語られています。

<さてオリュントス出身で男色の性癖のあるエピステネスなる男がいたが、漸く青年になりかかった年頃で、小盾を持った美少年が殺されようとしているのを見ると、クセノポンのところへ駆け寄って、美貌の少年の命を助けてやってくれと嘆願した。そこでクセノポンはセウテスの傍へ行って、少年を殺さぬように頼み、エピステネスの性癖を説明して、この男が嘗(かつ)て隊を組織した時、隊員が美貌かどうかということだけしか考えなかったこと、その隊を率いて見事な働きをしたことなどを話した。>
                   (同書 P.330より)

 顔だけで部下を選んだと言うと、個人的趣味に暴走してなんの役にも立たない見てくれ部隊、というのを反射的にイメージしますが、この場合すごいのは、
 「隊を組織した時、隊員が美貌かどうかということだけしか考えなかった」
 にもかかわらず
 「その隊を率いて見事な働きをした」
 点です。
 無論、美貌で選ぶと言っても、通りすがりの貧弱な若者を手当たり次第に顔で選んで集めたのではなく、一応兵士として訓練された一定ラインを超えた中からと思われます、それならあり得ることかもです(笑
 私も作品で、美青年部隊ではなく美女部隊などを描くことがありますが(娯楽アクション映画やヒーローものにも、よくありますよね)あれは有り得ないことではないのだなあ、と、この本を読んだ時うなずきました♪

<セウテスが訊ねて言うには
 「エピステネスよ、君はこの少年のために死ぬ覚悟があるか」
 エピステネスはセウテスに頸をさし伸べて言うには、
 「この子がそうせよと言い、それで私に恩を感じてくれるのであれば、斬って下さい。」
 セウテスが今度は少年に向って、彼の身代わりにこの男を斬ろうかと訊ねると少年は、それは止めて欲しい、二人とも殺さないで下さい、と嘆願した。この時、エピステネスが少年を抱いて言うには、
 「さあセウテスよ、この子をとるかとられるか、今こそ私ととことんまで戦うべき時ですぞ。私は絶対にこの子を離さぬからな。」
 セウテスは笑って、その件はそのままにして話を打ち切ってしまった。>

 エピソードはこれだけなのですが、当時のギリシャ人の感覚を知る、大変興味深く重要な描写だと思います。
 これを想像たくましくしてマンガ化しようとすると、最近の児童●●ノ問題などにも触れるため、執筆不可能になります。未成年者への性的虐待は言うまでもなくNOですが、あくまで性描写抜きでも問題なのか、それともそれなら(非性的描写だけなら)OKなのか。当面描く予定もないし、急ぎ知る必要もないのですが、後学のために知りたいところです。
 蛇足ですが、私の作品で美少年?というと、トランスセクシュアルな潜入刑事の『Mr.ボーイ』の坊クンですが、彼はあくまで見てくれが少年なだけで、刑事というくらいで成人です(「こまわりくん」ではありません)(笑)。
 ではではまた♪

追記
 同書は、このほかにも紹介したい下りが何点かあります。
 また改めてアップいたします。

『Mr.ボーイ』より・女装の主人公・坊
『紅壁虎(ホンピーフー)』36話より・李彦(レイジン)と美女軍団
コメント
この記事へのコメント
出版社の“自粛”のせいでしょうか?
児童ポルノ禁止法改悪は今回は流れたはずですが、しばらく目を放してる間に状況が変わったんでしょうか? でも特別国会すらまだはじまってないですし……。 日本人の悪い癖の“自粛”が影響して出版社とかが許可ださないんでしょうか?(ネットでも小説家になろうというサイトが規約にもりこんでましたけど)
2009/10/09(金) 04:48:39 | URL | ぼるてっかー #RwH1dyjc[ 編集]
火中の栗は拾わない
>ぼるてっかーさま
 その後法制化の動きがあるという話は聴いておりません。
 ただ海外からの圧力があることもあって規制がうるさいのは、変わりがないのかなと。
 出版社も危ない橋は渡りたがらないのかなとも思う一方で、不況なので売れればなんでもというところもあるでしょうし、その辺の実態はイマイチわかりません。
 ケータイマンガはやはりエッチ系が強いようですが、ビデオテープの普及にAVが大きな影響を与えたように、新しいジャンルが普及する際、やはり先陣を切って進むのは、あのジャンルのようです(笑
 話がずれてしまいましたね(爆
2009/10/09(金) 19:21:11 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
なにを持って美貌とするか
山本先生が(敢えて)面白おかしく表現されている点にツッコミを入れるのも野暮かと思いますが、冷静に考えると、イケメン部隊とか、美青年部隊といわれるとジャニーズに代表される、細身の男性を思い浮かべがちですが、必ずしもそうではないんですよね。
さらにつっこんだ描写として、当時のギリシャでどのような男性が、男性の同性愛の対象となるか、という点があると、もっと面白いんですけどね。実は毛むくじゃらでゴリゴリのマッチョが同性愛の対象だったとか。そりゃ、そんな部隊があったら強いだろー、みたいな。
今から数百年経った頃には、いわゆる腐女子とかボーイズラブとかいうのも歴史の一部として認知されるのかなー、BL研究者とかいう学者とかでてくるのかな、と思うと笑ってしまいますが、源氏物語も今の恋愛小説みたいなものでしょうし。もしそういう状況を見ることが出来たら「いとおかし」としみじみ思ってしまいそうです。
2009/10/15(木) 20:07:38 | URL | 石ころ坊主 #-[ 編集]
同感です
>石ころ坊主さま
 現代の同性愛の男性も、女性的なタイプが好みの方もあれば、マッチョなハードゲイ系の方もおいでですよね。
 アナバシスの例は、町でうろうろしてる華奢な少年に目をつけたのではなく、少なくとも兵士として使い物になるだけの筋力があって訓練を受けた人の中からのセレクトでしょうから、なよなよとした乙女系の美少年ではなかっただろうと思います。
 しかし毛むくじゃらでマッチョな同性愛軍団となると、それは強いのが当たり前ですね(笑
2009/10/15(木) 23:18:26 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
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