あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
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ゆるす人・1(参考資料)
 カテゴリ「ゆるすこと」の参考資料として
 世の中で、一般には「ゆるせない」と思われることを実際に「ゆるして」こられた人の例を、思いついたものから並べていこうと思います。
 本当の第一回は2008年8月15日の日記にアップしました「アガペー/お婆ちゃんの愛(再録)」ですが。

 一回目は、あの有名なカルト教団の殺人事件、松本サリン事件の被害者、河野義行氏。
 
 今更説明するまでもないですが、カルト教団の信者が撒いた毒ガスで、多くの方々が死傷された事件です。くわしいことは、検索すれば、ネットにもいくらでも出てくると思いますが
 河野氏の悲惨だったのは、被害者でご家族まで倒れられている(障碍を負って寝たきりになられた奥様は昨年亡くなられました)にも関わらず、当時、早合点した警察と偏向したマスコミの報道とそれに乗せられた無責任な一部の人々によって、事件の加害者、犯人であるとの決め付けを受け、多くの嫌がらせや苦労をされたと言う事です。
 おそらく言葉では言い表せない大変さ、我々の想像を超えたものがあったと思うのですが
 河野氏のすごかったのは、それでブチキレたり折れることなく、すべてを忍んで切り抜けていかれたことです。

 この夏、読売新聞に、改めて事件の今を取材した記事がありました。
 以下は現在(2009年)の河野氏についての抜粋です。

<8人が死亡、約600人の重軽傷者を出した松本サリン事件から27日で15年。第一通報者で、事件直後に疑いをかけられた河野義行さん(59)が読売新聞に、事件を起こしたオウム真理教の元信者らを許す心を語った。>

 河野氏は、今年(2009年)2月に東京拘置所を訪れ、地下鉄サリン事件などで死刑判決を受けて上告中の教団元幹部に面会、謝罪を受けられたそうです。

<1994年6月27日。犬が泡を吹き、澄子さん(奥様/山本・注)が倒れたあの夜は脳裏に刻まれている。「疑惑がなければもっと早く看病に専念できた」と心残りだ。誤認逮捕されて死刑になる可能性もあった。それでも警察やマスコミを恨まない。「相手を許す態度で臨めば、精神的に負けないと思った」>
                  (2009年6月28日(日)・読売新聞より)

 私(山本)の個人的見解ですが、氏は元々非常に知的で冷静沈着な方であったように思います。
 それゆえ、事件直後の悲惨な状況、混乱の中でも、あまり取り乱されることなく感情的にならず淡々と取調べ官や報道陣に対して思うところを述べられた。
 当時の報道を見ていて私はそういう印象を持ちました。
 そういう河野氏ならばこその、今日のこの心境だと推察されるのですが

 今思うと事件当時はその美点がアダになり、一部の人々の誤解と反感を招いたのではないかと思うものです。
 氏の「冷静さ」が「冷淡さ」と誤解され
 家族が倒れているというのに、あの冷ややかな態度はなんだ、とか
 近所の人々が死傷しているというのに、あのふてぶてしい態度はなんだ、とか
 そういう決め付けや思い込みが、被害者である氏に対して加害者、犯人であるとのレッテル張り(妄想と言ってもいいでしょう)を加速させた一因になっていたように思います。
 無論氏にはなんの落ち度もなく、勝手な妄想を抱いて暴走した短慮な人々の責任でしかありません。
 私は人間の愚かさの最たるものの一つが、自分が知りえない、判断しえないものついて、他者やものごとを裁くことだと思うのですが、あの当時の河野氏にまつわる悲劇は、事件そのものの悲劇の後に、愚かな一部の人々の言動による加害行為が、その悲惨さを倍加したと思います。

 同紙の河野氏へのインタビューは、上記の記事の数日前、2009年6月24日の夕刊にもありました。

<「家族を守りながら疑惑と闘った最初の1年はとてつもなく長く、妻の介護を続けたその後の13年はあっという間に過ぎ去った。3人の子供は当時中高生。ほったらかしにしてきたが、成長した姿を見ると、月日の流れを感じる」
 河野さんは15年をこう振り返る。>

<今年5月30日、山口市の会社員藤永孝三さん(48)は、山口県萩市の海岸で、河野さんと並んで釣り糸を垂れていた。講演で広島県を訪れた河野さんが寄ってくれたのだった。>
 
 藤永氏は、あのカルト教団の「科学技術省次官」で、同教団幹部の指示でサリンの噴霧器を製造した人物です。刑期を終えた人ですので、報道も「「さん」づけになっています。
 
<拘置中に河野さんの著書「妻よ!」を読み、たまらなくなった。殺人ほう助罪などで懲役10年の判決を受けたが、「自分の刑期など、失われた命の前では比較にならない」と思った。
 2006年6月、刑期を終えて、河野さんを訪ねた。目を合わせられず、ひたすら頭を下げた。河野さんは「あなたも運が悪かったね」と声をかけくれた。>


 自分の愛犬や妻を殺した犯人の訪問に、こう声をかけられる河野氏の境地はすばらしいと思います。
 藤永氏は以来
<月一度くらい、河野さん宅を訪れ、刑期中に覚えた剪定(せんてい)の腕をふるう。泊めてもらい、酒を酌み交わすこともある。
 ほかの遺族や被害者を忘れたわけではないが、謝罪など具体的な行動には移せないでいる。「これでいいとは思わないが、今の自分にできることは、河野さんを通じてすべての被害者に謝罪すること。自己満足かもしれないが・・・」と苦しそうに語る。>

 彼の償いは、これからの彼の人生で少しずつ果たしていくしかない課題であり、今ある状況はその一つの通過点に過ぎません。それはまた別の問題です。
 新聞には、今年の春に写した、二人が並んで釣りにでかけた際の写真が掲載されていました。

 ゆるす人が正しくてゆるさないのが間違いとかいうのではありません。
 自分や自分の愛するものを傷つけたり損なった相手をゆるせないと思う感情はしごく当然であり、ゆるせないものはゆるせません。
 ゆるせないと言う方に、あやまちがあるわけではありません。
 ただ、河野氏は、よりよく生きるためにゆるすことを選ばれた。
 怒りや憎しみのあまり心が壊れてしまう方がしばしば見受けられる中
<「相手を許す態度で臨めば、精神的に負けないと思った」>

 「ゆるす」という話において、必ず突き当たるのが
「そんな話はきれいごと、絵空事であり、自分が悲惨な目に逢えば、ゆるせるわけがない」
 というツッコミなのですが
 歴史上の偉人、聖人ではなく、今を生きる市井の人、ごく普通の一般人にも、絵空事ではなく実際に「ゆるして」生きている人がいるという実例を、河野氏は示してくださっているように思います。

 氏の歩まれた苦難の人生に頭が下がるものですが、加えて
 かけがえのない尊い見本を身をもって示されていることに、感謝の想いがこみ上げます。       
コメント
この記事へのコメント
河野さんの本は昔2冊読みました。河野さんは過酷な取調べでも。事実認定の部分で譲歩することがなかった。自己主張を曲げていない。あくまでも自分が主張の点で劣位に立っていないという立場を守りぬいた。それだから、後に過剰に被害者面をしなかったのだと思います。折れてしまったら被害者意識がでたかもしれない。

加害者を許すというのもあくまでも自分が優位に立っているという、事実があるからこそ出来ることですね。

どこかで加害者よりも劣位にある人間は、許すことができないのではないかな。
2009/09/27(日) 21:13:56 | URL | まえやま #-[ 編集]
優位か劣位か
>まえやまさま
 おっしゃることは大変問題の核心をついていらっしゃると思います。
 ただ、優位か劣位かはその人の主観であり、他人から見ると何も劣位に立っていないのに一方的に被害者意識に閉じこもっている方もあれば、一般的な感覚では劣位であるのに、まったく揺るがない境地を維持される方もあり(まえやまさまの言われる優位?)もおいでです。
 前者は、何不自由ない生活を送りながら世間をうらんでいる方とか
 後者は強制収用所で虐待を受けながら、最後まで誇りや矜持を失わず死んでいった方などではないでしょうか。
 ある段階までは、客観的な意味での優位が手がかりになるのは動かしがたい事実ですが
 そこを超えると、そういう優劣を超えて揺るがない方もいらっしゃると思います。
 無論、ごく少数派でしょうけども;
 コメントありがとうございました。
2009/09/29(火) 05:12:09 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
説明が不足していたようで、いくらか補足させてください。

河野さんは抽象的な法的観点から見たらどうしても正しい。犯罪者ではない。そして社会的常識もわきまえていた。

だから、高圧的な取調べをする警察や、リンチのような報道をするマスコミや、事件を起したオウムの連中と比較したら間違っているわけがない。

そういう意味で法的にも常識的にも優位に立っている。と言いたかったのですが説明が不足してしまい失礼しました。

しかし、おおよその意味を汲み取っていただきありがとうございます。

マスコミなども犯人探しとバッシングに夢中になりましたが、それは真実や社会的事実を明らかにするべき役目を引き受けているはずの報道機関の態度とはかけ離れていたので、そんなことをして、いいわけないしね。

マスコミが間違ってしまうと真犯人の思う壺ですから、責任は重かったでしょうね。


2009/10/03(土) 00:45:04 | URL | まえやま #-[ 編集]
ご丁寧にありがとうございます
>まえやまさま
 重ねてありがとうございます。
 法的にも常識的にも優位に立っている<そうですよね。
 昔ながらの言い方をするなら、「なんら天に恥じるところはない」わけで、淡々と己の信じる道を行くだけなんですが
 人間は弱いもので、周囲から(狭い範囲では取り調べ官とか)から攻め立てられ孤立すると、つい心がゆらぐものです。自分も実際その場になったらどうなるかわかりません。
 河野さんは貴重な手本だと思います。
 マスコミの責任<ああいう事件があると、そのあとは一時的に「襟を正す」とか言うんですが、全体的に見ると「のど元過ぎれば熱さを忘れる」で、十年一日のごとく、無責任なあおり報道がなくなりませんね。
2009/10/03(土) 23:57:49 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
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