あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
201701<<12345678910111213141516171819202122232425262728>>201703
『良心をもたない人たち』マーサ・スタウト著
『良心をもたない人たち』マーサ・スタウト著
『良心をもたない人たち』
マーサ・スタウト著/木村博江・訳/草思社

 著者は米国の心理セラピスト。
 25年にわたる豊富な臨床経験から
<カウンセリングにくる患者の多くが「良心のない人々」に苦しめられている事実に気づき、本書を発表>
 したそうです。
 この日本版は2006年の刊行となっていますので、すでにお読みなられた方もおいででしょう。

 スタウト氏によると、米国民の4%つまり25人に一人が「良心をもたない」人なようです。
 幸いと言うか、日本はもっとその率が低いそうですが、近年なんだか近づきつつあるような気がしてなりません。
 彼ら(彼女ら)は、他人から何を奪おうと傷つけようと、なんの良心の呵責もストレス後悔の念も持ちません。他人はただ自分の楽しいゲームのコマでしかないのです。
 文中では「ソシオパス」「サイコパス」といった名称で呼ばれていますが、これらは近年、「反社会性人格障害」など他の呼び名もあり、様々に意見がわかれるようです。

 本書で取り上げられる「良心のない人たち」というのは、けして映画やマンガに出てくる猟奇犯罪者のような、見るからに危ないキレた人たちではありません。
 むしろ、日常どこにでもいる、一見普通の人たちです。
 折り返しの部分の見出しを引用すると

<良心をもたない人の特徴
 一見、魅力的でカリスマ性がある
 嘘をついて人をあやつる
 空涙を流して同情を引く
 追いつめられると逆ギレする
 自分にしか関心がなく、退屈しやすい
 刺激を求めて「支配ゲーム」に走る
 人に依存したがる
 チームプレイがへた
 近視眼的で世間知らず>

 ああ、いたいた、そういうヤツと思われた方、けっこうおいでなのではないでしょうか。
 学校で職場でご近所で、、ときには家庭の中にも、そういう人物は存在します。
 一見人当たりがよく、人をたらしこむのがうまいので、最初はだまされて付き合ってしまったり。
 ぶっちゃけ私も、そういう人物に何年かだまされ、エライ目にあいました。
 全然他人事と思えません。

<ブリティッシュコロンビア大学の心理学教授ロバート・ヘアは(中略)自分の患者についてこう書いている。「彼らには専門家もふくめてだれもがだまされ、あやつられ、甘言(かんげん)にのせられ、目をくもらされる。優秀なサイコパスはどんな相手の琴線(きんせん)にもふれることができる・・・・彼らから身を守る最良の方法は、この捕食者の性質を理解することだ。>

<サイコパスはだれかを格好の獲物と見てとると、その相手をじっくり観察する。どのように相手を操作し利用すべきか、そのためには相手をどのようにうれしがらせ魅了すべきか、考える。そしてさらに、サイコパスは親近感を強めるこつを心得ていて、犠牲者に自分と似たところがあると言って近づく。犠牲者はサイコパスと縁が切れたあとまで、自分の心をつかんだ台詞をよく覚えている。「ぼくと君は似た者同士だ」「あなたとは心が通じあえるの」などだ>

 昔から私は、人が本当になんとかしないといけないのは、世界の果てに住んでる大魔王とかじゃなくて、すぐそばにいるどうしようもない困ったちゃんだと思っていたものですが、これはそのことを大変具体的に解説している一冊です(笑)。

 私は性善説でも性悪説でもなく、人はいずれでもあると思うものです。
 本書では「良心をもたない人たち」と訳してありますが、私は「タガのはずれた人たち」「タガをもたない人たち」と言い換えてもいいと思っています。それもポジティブな意味でではなく、ネガティブな意味でです。
 彼らは自分のしたいことをする。
 それにはなんのルールもない。
 黒澤映画のセリフで「狂犬にまっすぐな道ばかり」というのが、あったように思いますが、ちょうどそんな感じです。
 変な言い方ですが、究極の自由人でもあるわけです。

 著者は、自身の豊富な臨床例から、いくつかの典型的なタイプ(犯罪にならない範囲で、積極的に動いて人を傷つけもてあそぶ者、ひたすらぐうたらで他人に寄生して「かわいそうな人」を装う者、本当に犯罪を犯して殺人にまで及ぶ者、などなど)を挙げて解説、心理学的分析や脳機能の違いについての論文も引用し、その傾向と対策を書いています。
 以下がその目次です。

1 ジョーのジレンマ
2 氷人間スキップ
3 良心が眠るとき
4 世界一、感じのいい人
5 なぜ人は身近なサイコパスに気づかないのか
6 良心をもたない人の見分け方
7 なにが良心のない人をつくりあげるのか
8 となりのサイコパス
9 良心はいかに選択されてきたか
10 なぜ良心はよいものなのか

 サイコパスの脳機能についても興味深い分析が載っています。
 脳のどの部位が活性化するかという検査をすると、一般の人が感情に関わる言語にするのとは別な反応を彼らはする、と言うか同じ反応が彼らはできない。
 「愛」と「椅子」といった、一般の人間にとって重要性の異なる単語に、同じような反応を示す。
 また、感情に関わる意思決定を求められた場合、普通の人間が反射的に解けるような内容を、数学の方程式を解くような脳の部位を使って解こうとする。

<サイコパスに良心が欠如しているだけでも悲劇的なのに、それだけではない。彼らは愛ややさしさといった感情的体験を受け止めることができないのだ---その体験が、仕事として冷たく頭で計算されたものであるとき以外は>

 これはかなり重要なポイントだと思います。
 人生において、人はさまざまな幸不幸を体験し、学んでいくものですが、彼らは同じ体験を通しても「学べない」ということですから。
 しかし、一つ誤解を心配しフォローしておきたいと思うのは、世の中には色々な知的精神的ハンディを抱えた方がおいでで、感情面においても、一般の人間と同じ理解を得られない方もいっぱいです。ただ、その方たちが、イコール「良心のない人たち」ではけしてない。一般人に比べて「劣る(と一般的には思われている」方でも、愛や感情は十分に受け止められたり(逆にもっと豊かであったり)、感情的には「鈍い(と一般的には思われている)」方でも、ちゃんと分別や思いやりをその方なりの方法で持っていられる。そういうケースが多々あります。
 人が「良心をもたない」状態に陥り、他者を傷つけることや支配することに喜びを見出していくには、もう一つ「一線を越える」何かがそこにあるように私には思えます。

<残された数々の記録を調べると、サイコパスはさまざまな呼び名で、古くから世界各地に存在していたことがわかる。例をあげると、精神医学専門の人類学者ジェーン・M・マーフィーは、イヌイットの“クンランゲタ”について触れている。クンランゲタは、「自分がすべきことを知っていながら、それを実行しない人」を指す言葉だ。アラスカ北西部では、「たとえば、くり返し嘘をつき、人をだまし、物を盗み、狩りに行かず、ほかの男たちが村を離れているとき、おおぜいの女たちと性交する」男が、クンランゲタと呼ばれていた。イヌイットは暗黙のうちに、クンランゲタは治らないと考えていた。そして、マーフィーによれば、イヌイットの間では昔から、こうした男を狩りに誘いだしたあと、だれも見ていない場所で氷の縁から突き落とすのが習わしだったという>

 
 以前このブログで『愛と心理療法』という本を取り上げましたが、これはそれと対をなす(対立するのではなく、ともに補い合う)一冊と言ってもいいかもしれません。
 『愛と心理療法』の著者であるM.スコット・ペック氏の著作に『平気でうそをつく人たち』というのがありました。
 発売当時、私も買って一読したのですが、当時は今ほど人間への洞察が至らなかったせいか、そんなこともあるかなあという感じで、手放してしまったものです。今ネットでレビューを検索すると、賛否両論ある本のようです。しかし、問題点は問題点として、身近にいる「危険な人々」への認識を新たにさせたという点では、おおいに意義ある一冊だったと思うものです。
 私の知っている「良心をもたない」人も、平気で嘘をつく人でした。AさんとBさんに双方の嘘情報を流して互いの仲を険悪にさせるとか、平気でします。いや、まるまるの嘘ではなく、ある程度の真実に巧妙にそっと毒をそえて出す。そうして人々と状況を支配することが喜びなのです。
 また、自分の不幸を語って人の関心を引くだけでなく、人の不幸を聞き出して、人を操るネタにします。
 人の精神的肉体的トラブルや、ウィークポイントについての情報は、そういう人間の存在を思うと、あまり軽々しく口外すべきではないと思うようになりました。

 『良心をもたない人たち』は、スコット・ペック氏のその本より10年近く経って書かれたものであり、より現在の状況に即した内容になっていると思われます。
 世間の大多数を占める「良心をもつ人たち(多い少ないはあるにせよ)」は、どうしても自分を基準に考えてしまうため、そこまでタガのはずれた存在というのを、なかなか想定することができません。
 同じ人間ではあるのですが、根本的に異質な存在もあるということを認識するのに、貴重な一冊だと思います。

 すべてには光と影があり、どちらか一方だけ求めても、不足が生じます。
 『ゲド戦記』に「無垢なだけでは真の力にはなりえない」という意味の文章があったように思いますが、まさにそれです。
 ひたすら世間の闇をつついて、ものがわかったような顔をする在り方には、まったく共感しないのですが、時には闇も踏まえておかないと、とんでもないことになるという意味で、今回は珍しくそっち方面の書籍に言及してみました。


良心は愛する能力を欠いては存在しない。そしてサイコパシーの根源にあるのは愛情の欠如なのだ>

<世の中には良心のない人もいるという苦い薬を飲み込もう。
 自分の直感と相手の肩書きにギャップを感じたら、直感の方を信じよう。
 嘘、約束不履行、責任逃れが3回重なったら、その人を信じてはいけない。
 人に同情しやすい自分の性格に疑問を持とう。
 治らないものを治そうとしてはいけない。>
                           (同書から)
コメント
この記事へのコメント
良い書評ですね。
最後の抜粋は心に留めておきます。
ただ直感だけは自分の人生経験の未熟さからか間違っていることが往々にしてあるので気をつけないといけませんが(笑
2008/12/20(土) 20:45:15 | URL | choker #-[ 編集]
ありがとうございます
>chokerさま
 ありがとうございます。
 私は商売柄「直感」「直観」抜きの人生はありえない(私にとって、それ抜きの作画や創作はありえませんので)と思って生きている人間ですが、その一方で「期待」と「予感」を人は簡単に取り違える生き物だとも思うもので
 軽々しく使うべきものではないとも思います。
 まして軽はずみに人様にレッテルを貼ることは慎まねばと未熟者の一人として肝に銘じております;
2008/12/21(日) 15:33:56 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
来ましたね
ご無沙汰しております。

この本は以前からアマゾンの関連商品に出てきており、迷いつつも未読という状態なのですが、なかなか良さそうですね。

>一見、魅力的でカリスマ性がある

周りを見られなくて自分の世界が強いんですよね。ですから強烈なことを言うんですよ。それを聞かされて「ああこの人は力があるんだな」と思わされてしまうのではないでしょうか。

>治らないものを治そうとしてはいけない

これは厳しいですね。厳しいですけど、治そうとするのは間違いだと私も思います。

スコット・ペックも「悪はあると思う」と言ってますが、この課題はやはりあるんですね。
2008/12/21(日) 15:39:35 | URL | カルマヨギ #-[ 編集]
お久しぶりです
>カルマヨギさま
 人を見る目は一生磨いていかねばならんなあとつくづく思います。
 世界のあら捜しにやっきになるくらい虚しい生き方もないと思うのですが、闇も認識しておかないことには、現実への対処ができませんものね。
 ゆるがせにできないテーマだと思います。
2008/12/22(月) 17:42:22 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
スポーツクラブに、口達者で人気者、呼吸するように嘘をつく自称建築家がいます。子供好きだと言ってるが、明らかに子供を見る目が冷たい。ボランティア的なことも好きだが、非常に計算高く冷酷。で、偽造での逮捕歴もある。理解できん。でも、面倒見が良かったりして。サイコパスか?
2009/02/10(火) 20:02:38 | URL | itasann #-[ 編集]
かもしれませんね;
>itasannさま
 その方のことはわかりませんが
 そのタイプには、自分でもどこまでがウソでどこからがホントかわからなくなっているケースもあるようで、どこまでが詐欺師でどこまでが精神疾患なのか素人には判別できませんね。
 気を許さないようにすることかと存じます。
2009/02/10(火) 23:03:02 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
面白いなと思ったのがサイコパス、良心を持たない人間の特徴が、それに標的にされた(サイコパスが求めるもの)を持つ人間のその後訪れる病的な特徴と類似している点です。
少し現実的ではありませんし抽象的な表現になりますが、不完全である自身の欠けている部分を、それを持つ他者を貶め奪う事によって補完しようとする性質があり、その侵食、もしくは攻撃を受けた他者は特徴を奪われ深く傷ついた自身を守りたいが為にその長所を封じてしまう。
乗っ取る、という言葉が適切でしょうか。
所詮は猿真似なので時間と共に本人の化けの皮は剥がれていきますが、被害者にとっては非常に深刻で時間を要する病いを移されたということになります。
少しこの事について議論出来る場が欲しい今日この頃、大変為になる書評でした。
2014/11/04(火) 21:53:51 | URL | てつお #-[ 編集]
Re: タイトルなし
>てつおさま
 ご丁寧にありがとうございます。
 何かお役に立ちましたなら幸いです。
 そういう「負の伝言ゲーム」のような(「感染」とたとえてもいいでしょうか)ものをいかに断ち切っていくか、を日々考え試行錯誤しております。
 無意識的に生きていると、やられやすい。
 精神のセキュリティ、ファイヤウォールを構築し更新していくことが大切かなと思います。
 悪辣な攻撃者のなすがままにはされない、被害者にならないという決意とそれに応じた自己を作り上げていくことかなと。
2014/11/06(木) 18:33:48 | URL | 山本貴嗣 #-[ 編集]
悪人ばかりが得をするなんて、世も末ですね。私の同期も化け物でした。今後は、穏やかな人間関係を築ける方に出逢えると大変幸いです。過ぎたことにはこだわらず、執着せず、前向きに私らしい人生を歩みたいと思いま〜す♪( ´θ`)ノ
2014/12/03(水) 11:44:13 | URL | めんどくさい世の中 #-[ 編集]
Re: タイトルなし
>めんどくさい世の中さま
 悪人ばかりがいい目を見ているわけではないと思っております。
 短期的には何か得をしたように見えますが(金とか権力とか優越感とか)引き換えに大事なものを手放しているような。
 根本的に価値観が違う人たちがいますよね。
 人生でたまに関わって辛い思いをすることもありますが、手放して幸せに生きていくのが一番だと思います(放置できない犯罪者などは別として)。
 ご自愛ください。ありがとうございます。
2014/12/06(土) 04:27:39 | URL | 山本貴嗣 #-[ 編集]
コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する
copyright © 2004-2005 Powered By FC2ブログ allrights reserved.