あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
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私的感涙
 なんの脈絡もないんですが
 時代劇専門チャンネルの高橋幸治主演の『丹下左膳』を見て、不覚にも泣いてしまいました。

 70年代初頭の作で、かなりトボケた味なんですが
 主人公は、時々人を斬って暮らせりゃいいという危ない浪人。
 孤児の少年・ちょび安は、左膳を「ちゃん」と呼んで慕い、左膳が人を斬っていると喜んで壁に「正」の字を書いて斬った人数を勘定していたります。

 今やってるのは「こけざるの壺」篇。
 百万両のありかを秘めた「こけざるの壺」を巡って、多くの者が倒れます。

 左膳いわく
 「これを持ってると金の亡者どもが寄って来る。それを斬るのが楽しみで、なかなか手放せないんだ」
 ただの趣味で人斬ってます。
 でも視聴者も同罪です。
 ばったばったと人が斬られるシーンを楽しみで、チャンバラ見ている人間に、彼を断罪する資格はありません(笑)。カウチポテト(死語)で戦争映画を見てるようなものです。

 今日はその問題の壺が、知らぬ間に左膳の手を離れて古道具屋に。
 回りまわって彫刻師の老人のもとに。
 老人はそれが、多くの血を流す元になっている壺であることを見抜きます。
 孫のような幼い少女と、どうしたものかと話していると
 いっそお奉行所に届けてはどうかということになります。

 足の不自由な老人は行けません。
 そこで少女が行くといいます。
「こんな夜遅くお前がかい?」
「だってあたしなら、誰もそんな壺を持ってるって思わないでしょ?」
 雪の降る中、頬かむりし壺を背負ったちっちゃな少女に、老人が提灯を持たせます。
 「気をつけて行きな」
 「うん」
 私は泣いてしまいました。涙がこぼれて仕方がありませんでした。

 そこまで別に泣くとこじゃないだろうと笑われそうですが、泣けるものは仕方がありません。
 街灯などない江戸時代の闇路を、寒い冬の道を、ちっちゃな少女がとぼとぼと一人、提灯を下げかじかむ手を息で温めながら歩いて行きます。

 ああ、こんな時代があったなあ。
 こんな頃があったなあ。
 自分は昭和30年代の生まれですが、昔の冬は寒かった。
 夜道もそれは暗かった。
 自分もこんなふうにちっちゃくて
 でも一生懸命生きてきた。

 黒澤映画の『七人の侍』で、三船敏郎演ずる百姓出の侍が、野武士の焼き討ちで焼け出された幼子を抱きながら泣き叫ぶ
 「これはオレだ。おれもこのとおりだったんだ」
 の場面と、同じような想いでした。

 幸い私には、幸せを祈ってくれた両親や祖父母もいました。

 テレビの画面に映ったドラマは、ただのきっかけに過ぎません。
 子どものころ思ったものでした。
 なぜおじいちゃんやおばあちゃんは、年寄りは
 あんなに涙もろいのだろう。

 この齢になるとわかります。
 幼い者の行く道に、どれほどの色々が待ち受けているか
 老いた者には見えるのです。自分も歩いた道だから。

 幼い子が歩む姿に
 祈らないではいられません。
 あの子が幸せでありますように。守りと導きがありますように。
 そう思う時、
 自分はその幼子であり、見守る親であり祖父母であり、見知らぬ誰かでもあります。
 
 私は、ドラマで架空の昔のどこかの誰かを演じている少女に、涙を流したのではなく、
 自分と、自分を見てくれた誰かと、
 そして同じように生きる死んだ人たち、またこれから生きて死んでいく人たちを思って泣きました。

 気をつけて行きな。
 うん。


 ドラマは奉行所の門番が、少女が老人からことづかって来た手紙を見て、木戸をあけてやるところで終わります。

 次回予告
 あー、また斬りまくってるよ左膳のだんな。
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2007/03/12(月) 13:48:09 | | #[ 編集]
こちらへもお邪魔致します、
こちらへもお邪魔致します、くまくまでございます。高橋幸治様、帝都物語の幸田露伴の役どころでも殺陣、ありましたね~。最近お見かけ致しませんが、幕末~明治初頭の剣客を演じたらぴか一です。中村ライオンヘッドさんの丹下左善よりも悪党なところが素敵です。
2007/03/12(月) 21:12:21 | URL | くまくま #-[ 編集]
>くまくまさま
 ようこそいらっしゃいました。ありがとうございます。
 高橋さん、独特の味でよかったですねー。
 丹下、あと少しで再放送終了なので、寂しく思ってます。
2007/03/13(火) 04:58:33 | URL | 貴嗣 #eNGjGrc.[ 編集]
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