あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
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漫画家と出版社の問題・小考
 先日から、某有名漫画家さんと出版社の問題(原稿紛失に対する処遇に端を発する様々な問題)が一般のニュースでも取り上げられ、話題になっております。
 へたに憶測を交えて語っても益がありませんので私はあえて言及しないでおりましたが、昨日はまた、ほかの有名少女漫画家さんも援護射撃をなさっていたようで、大変興味深く拝読しました。

 今回の事件はほんの氷山の一角で、漫画業界の一部にそういう問題が昔から根深くあることは事実です。
 幸いと言っていいのかどうか、デビュー30年になる私は、今回の事件で語られているようなひどい編集さんには出会ったことがありません。
 理由は色々考えられますが、私が特定の出版社で子飼いになっている漫画家ではなく、いわゆる一匹狼というか一匹猫だったことがあるかと思います。
 こいつはうちでデビューさせてやったんだ、うちで育ててやったんだというスタンスで付き合われていなかったということですが。
 だいたい、これまで接してきた編集さんはほとんどが礼儀正しく、暴言を吐いたり不誠実な対応をする方はおいでになりませんでした。

 むしろ困ったのは、あちらも誠実で一生懸命やってくださる、こちらも出来る限り精一杯努めている、でも、どうにも考えが食い違っていて「物別れ」に終わった、というようなケースです。
 連載中は私もストレスで体調を崩したりしましたが(もしかしたら編集さんも同様だったかもしれません)これはどちらが「悪」とか「愚か」とか判定できるものではなく、お互い接点が見いだせなくて残念でした、というようなもので
 その編集さんとは今でもお付き合いがあります(もはやその方も部署が変わり、私も最近はその編集部で仕事はしていませんが)。

 ただ、中には確かに本当に怒りを禁じえない編集さんもおいでで、
 こいつは一回なぐってやりたいなと思った人も一人だけありました(なぐりませんでしたけど)(笑
 でも、その人も、けしてわけのわからぬ「悪人」だったわけではなく、血も涙もないやり方でこっちとしては大変「痛い」経験だったけど、編集者としてはけして「間違った判断ではない」よなと思ったものです。

 
 一部の出版社における子飼いの漫画家への接し方というのは
 いささか極端なたとえかもしれませんが、どこかの植民地における支配者サイドの現地人被支配層へのそれに近いものがあります。

「こいつらは俺たちが支配してやらないと、まともなことなんかできやしないんだ。俺たちが支配してやっているから、こいつらは生活できるんだ。だからこの支配は正義だし、こいつらはこれが幸せなんだ」
 
 それを錦の御旗にして、あらゆる差別、侮辱、非人間的な行為が正当化され、うやむやのうちに葬られていくわけです。
 
 今回の問題は、特定の漫画家の個人的問題ではなく
 漫画界の一部に根強く残る、漫画家の「人権問題」と言うことが出来るかもしれません。
 日本には労働基準法というものがあるようですが
 そんなものはこの世界にありません(存在できるとも思っていませんでしたが)(笑
 ちなみにネットで検索した労働基準法の冒頭部を少しコピペします。 


「労働基準法

第1条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。(労働条件の決定)

第2条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」

 そんなものは漫画界のどこにもありません。
 漫画家はだいたい一匹猫であり、団結して「組合」なんか作りません。
 私も作りたいと考えたことはないですが、それがまたいいように使われる一因でもあるでしょう。
 ちなみに私はいわゆるマルクス・レーニズムには共感しませんので、それにのっとった「労働争議」というものにもあまり興味がありません。
 ただ、当面それ以外、上に意見を通す方法が見当たらず、自分たち(あるいは他の方)の生活を守るために真剣に苦心なさっている方がたを否定はしませんし、その想いがかなうことを祈ります。またそのご苦労には敬意を表します。

 政治や宗教問題の論争をブログで行うつもりがありませんので、それ以上踏み込んで是非を語ることはしませんが
 ぶっちゃけ事実として申し上げますと

 この業界には
 一種の「下請けいじめ」体質があります。
 
 面倒なことはすべて末端に(つまり作家とそのアシスタントに)押し付け、雇うサイドは責任はなしというものです。
 上記の漫画家さんの体験談に
「おれたちは土日休みたいんだ、おまえらはいい金もらってるんだから土日も働け」
 という編集さんの話がありましたが
 「いい金もらってる」のはほんの一部の売れっ子先生であり、新人は連載をこなすためにアシスタントを何人も雇い、休息もとれず、非人間的スケジュールをこなしたあげく連載が終わったときは借金だけが残ったなどという笑えないケースもままあります(業界用語で言う「連載貧乏」というやつです)。
 それがイヤなら漫画界に来るなということなのかもしれませんが
 それが健全な体質とはどう考えても思えません。

 ちなみに、今回の問題にからんで、漫画家の原稿料のこともあちこちのブログで話題になっていましたが
 出版社が新人の賃上げ交渉で使う断りの言い訳の最たるものが
「(大家の)○○先生や××先生でもこの原稿料なんですよ(だから君みたいな新人が何を言う)」
 というものです。
 これは一見筋が通っているようで、実は逆で
 売れっ子の大先生は印税で大金が入るため、原稿料なんかそんなに高額である必要がないのです。
 むしろ、印税のあまり入らない新人こそ、まともに暮らせるような最低限の原稿料収入というものが必要なわけです。

 また
「ほっておけば毎年1000円ずつ上がる原稿料」
 などというのは、ごく限られた恵まれた人のもので、そんな恩恵には浴したことがない作家の方が多いと思います(そういう私も浴していません)(笑

 とりあえず、思いついたことのほんの一部をアップしました(全部書いていると仕事が落ちます)(爆

 私は、インドの独立運動に一生をささげたガンジーを尊敬するものですが(彼もまた人間であり、多くの欠点や問題もあったことも踏まえた上で、です)
 彼が支配者である英国に対してとった
 敵にもけして敬意を忘れない
 敵の不幸を願うのではなく、ともに生きる道を模索する態度に共感するものです。

 敵だ味方だ、正義だ悪だではなく
 すべての人が、ともにより良く生きる道を見出せるよう強く強く願っています。


追記
 過労死しそうで休みをくれと言ったら罵倒された、といった問題ですが
 私がお付き合いのあった編集部は(私が売れっ子でなかったせいもあるでしょうが)(笑)そういうことはありませんでした。
 編集さんは誠実に調整を図ってくださいました(異なる複数の出版社で)。

 あ、でも知り合いの売れっ子さんは、入院中の集中治療室まで原稿の催促に「侵入」して出入り禁止になった担当さんの話してましたね。やはり超売れっ子になるとそういう目に逢うのかはてさて・・・?
コメント
この記事へのコメント
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2008/06/10(火) 09:26:43 | | #[ 編集]
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2008/06/10(火) 15:02:05 | | #[ 編集]
コメントくださいました方へ
コメントありがとうございます。

原稿紛失は昔からある事件で私も何度か体験していますし、師匠筋や友人も被害にあっています。
 今回の問題も、きっかけは原稿紛失ですが、問題はこのブログでも書きましたとおり、非常に根深いものだと思います。

 ちなみに昔私が聞いた賠償基準は
 モノクロ原稿は原稿料の三倍
 カラーが5倍とかいうものでした(記憶違いかもですが)。

 おっしゃるとおり「会社の大きさとお金を自分の権力と勘違いしている編集さん」というのは、時々いらっしゃいます。
 中には、別にそれでもいいや、逆らえるのなら逆らってみやがれという確信犯も少なくないかと思います。

 志ある人との組合<確かにかなりの数が集まれば可能なのかもしれませんが
 日々の暮らしで精一杯な漫画家はその余裕がなく(私とか)(爆)
 余裕がある売れっ子さんは争う必要がないケースが多いのかもしれません。
 難しい問題です。
2008/06/10(火) 15:31:26 | URL | 貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
くわしいことはよくわかりませんが
漫画家への報酬は一枚いくらではなくてこのプロジェクトというか仕事を終了させたらこれだけ支払う。みたいな、契約というのはないのでしょうかね。仕上げた作品に人気が出ればボーナスがでる、ということもあっても面白いと思いますが・・・

漫画家と編集者と出版社それからスポンサー(というか広告主)

などの立場がビジネスとしてどうあるべきか私は多少考えて、疑問に思ったのですが。

日本の漫画業界は広告主が出版社に対してお金をだして、編集者が出版社の都合に合わせて、漫画家を使う。というような図式なのでしょうかね。

私は思うのですが、漫画をビジネスとして成立させるだけなら。

スポンサーが直接、漫画家につくことがあっても面白いだろうし。

あるいは、編集者にスポンサーがつくということがあってもかまわないのではないか。と思うのですが。

漫画家にしても編集者にしても有名で個性や才能があるのがわかりきった個人に対してなら

スポンサー(というのか私は用語を知りませんが出資者)が漫画家に、こういう仕事をさせたいからこういう機会を用意してやる。というように漫画家と直接交渉して漫画作品を制作してもらう。みたいな契約が成立したら面白いだろうな。と思ったりしたのですが。具体的に書けなくてすいませんが。ありえないでしょうかね。

それから漫画家の労働環境の悪さは夏目房之介が『夏目房之介の漫画学』で指摘していたような気がしますが、当時(80年代)と比較していまの労働環境が良くなったわけではないのですか。

2008/06/12(木) 01:23:53 | URL | まえやま #-[ 編集]
ご意見ありがとうございます
>まえやまさま
 貴重なご意見ありがとうございます。
 まず、漫画家の労働環境は80年代に比べてほとんど何も改善されてないように思います。
 「前世紀の遺物」というコトバがありますが、まさにそのままではないかと。
 「下請けいじめ」と私は書きましたが(それを最初に指摘したのはつまなんですが)たとえば運送会社が会社同士の競争に勝つためにどんどんハードなスケジュールを取り入れて、そのツケは末端の運転手さんにおっかぶせ、過労でその人が事故っても、上の方は責任のがれをするというような
 そういう体質が根深くあります。

 それから広告主の問題ですが
 先日私がmixiでアップしている日記(このブログとほぼ同じです)に、ほかのお客様からもっと漫画でも広告を入れたらというご意見があったのですが、それに対していしかわじゅん先生が
「漫画は広告効果が薄いんで、広告主がつかないんだよ」
 という業界情報をくださいました。私も知りませんで勉強になりました。

 ちなみに現在私はケータイ配信漫画を描いているところですが、これも従来の漫画の執筆体制とは異なる(少し間を飛ばしたものになります)もので、大変興味深い新ジャンルです。

 ありがとうございました。
2008/06/12(木) 01:33:30 | URL | 貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
拍手コメントいただきました方へ
ありがとうございました。
なにかご参考になりましたなら幸いです。
2008/06/14(土) 03:00:00 | URL | 貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
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