あつじ屋日記
まんが家・山本貴嗣(やまもとあつじ)の日記です。 作品から日々思うことまで色々書いてます。
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山田氏と語る三山のぼる先生の思い出
夕方、旧友の漫画家山田Dr.コトー貴敏氏から電話があったので、三山のぼる先生の訃報を告げると仰天して
 全然知らなかったようで絶句。
 それからひとしきり思い出話になっちゃいました。

 私や山田氏にとって、若いころ三山先生の絵はあこがれで、二人とも
ブリキ細工のトタン屋根
 は、何べん読んだか知れません。
 山田氏は同じ大学の漫研の後輩です。一年下ですが、彼は一浪なので同い歳です。彼のアマチュア時代には何度か手伝ってもらったこともありました。彼より画力のあるアシスタントは出会ったことがありません(アシスタントと言っても師弟関係ではありません。たまたま手伝ってもらっただけです。デッサン力なんかは当時からかないませんでした)。

 私より数年遅れてデビューした山田氏でしたが、少年マガジンで受賞して連載が決まったころ
「自分は三山先生の大ファンで、できることならお手伝いさせていただけませんか」
 と自分の受賞作のコピーをモーニングの編集部に持ち込んだそうです。
 んで、合計三回くらい手伝いに行った(彼が三山先生のアシスタントに臨時で行ったことは聞いてましたが、私てっきり編集さんに呼ばれて助っ人で行ったと思ってました。自分から売り込んで行ったとはびっくりです)。

 当時山田氏が22~23歳くらいでしたから、三山先生は26~27歳でらしたわけで
 それであの『ブリキ細工・・・』の絵かと思うと絶句します。やはり天才です。
 最小限のラインで最大限の効果。
 ザクザクッと描いてトーン貼って削ると、太陽にきらめく海原とかになってて、感動したよねーって、しばし山田氏と語り合ってしまいました。

 山田氏は三山先生の流麗で速い執筆に驚愕したそうです。
 見開きページにマルがただ二つぽんと描いてあって、三山先生は左手に真横のバイクの資料写真を持って、下絵なしでどんどん、下から見上げたアングルのバイクを描いていく。マルはタイヤだったんですね。
「いつもはこんなことしないんだけどねー。今回時間なくて」

 神技だと思ったそうです。
 
 山田氏がぱっと見て、この背景なんかおかしくネ?みたいなのに
 三山先生が62番のトーン貼って削りこんでいくと、見る見る立体の見事な風景ができていく。
 割り箸の側面にインクつけて、ベッと引くとコントラスト抜群の椰子の木ができる。

 ああ、自分は永久にこの人にはなれないなと思ったそうです。

 山田氏も画力のある人でしたから(今でもあります)三山先生も憎からず思ってくださったようで
 背景の小物を何点か描いたら
「ああ、これなら表紙(連載漫画の一枚目のタイトルページ)いけるよ」
 と言われて、表紙をまかされて
「ラフに描いてね」
 と言われて、山田氏は汗だくで描いたそうです。
「ああ、こんな感じ」
 と言って三山先生は自分でトーンを貼って、少し手を入れて完成させたそうです。

 蛇足ですが、漫画や絵に関心がおありでない方のために補足しておきますと、「ラフに」というのは、細かく丁寧にではなく、短時間で簡略にポイントを押さえてという意味で、センスのある限られた人にしかできません。才能が多少なくても、丁寧に時間をかければある程度見られる絵は描けますが、ラフに描いて絵になるのは、本当にセンスのある人だけ。
 普通の人がまねするとただ「雑」な絵ができるだけです。

 仕事終わって最後に
「サインください」
 と言ったら
「やだ」

 奥様が
「いいじゃない、サインくらいしてあげなさいよ」
 と言われたのですが
「やだもん」

 私の知り合いの漫画家さんが数年前に編集さん経由でサインをお願いしたときもいただけなかったそうですが、けしてタカビーとかじゃなくて、たぶんシャイな方なんでしょうね。


 山田氏に向かって三山先生は
「サインはあげないけど、また手伝ってね」
 と言われたそうです。
 それはものすごく光栄なことだと思います。彼の腕を買ってくださっていたという証(あかし)でしょうから。

 色々思い出話を聞きましたが、電話の最後に山田氏に
「これいい話だから口外していい?」
 と聞いたら
「いいっすよ」
 と言うので

 ここにこうしてアップします。

 私は人様を貶めたり非難する記事は書きたくありませんが、この話は三山先生の制作風景を伝える貴重な証言であり、三山先生、山田氏、いずれの方にとっても誉れにこそなれ失礼やマイナスな内容ではありえないと思います。
 せっかくの内容を、このまま一人胸に秘めておくより、ステキな業界裏話、歴史の一こまとして公開したいと思います。

 三山先生は私にとって、年齢別の女性の肉体を魅力的に描き分けられる、唯一無二の絵師でした。尊敬する希代の名手でした。
 心より敬意と感謝を捧げます。
 ありがとうございました。


追記
 実はかく言う私、山本も、駆け出しのころ光文社のジャストコミックで仕事してて、三山先生が緊急にアシスタントが入用で、編集さんから打診を受けたことがあって
 行きたいのは山々だったんですが、ちょうど風邪を引いてしまってお流れになったことがありました。
 今思うと残念です。
 確か先生と一度だけ電話してお声を聞いたような記憶があります。


追記2
 山田氏もうまくて速い人でしたが、その山田氏が追いつけないくらい三山先生は速かったそうです。
 当時私(山本)は自動車が苦手で、三山先生のザクッと描かれた自動車の絵を、ちょうど手伝ってたという山田氏に
「この車、三山先生資料写真見て描いたんだよね?」
 と聞いたら
「いや、何も見てなかったっすよ」
 で、仰天した覚えがあります。
 四半世紀も昔の思い出です。


追記
 三山先生の追悼本『レクイエム』について、「三山のぼる『レクイエム』」の記事を追加しました。
コメント
この記事へのコメント
とても残念です
昔読んだ 「ノストラダムスの息子たち」がとても好きでした。いまでも手元にコミックが有ります。とても残念です。
2007/12/07(金) 20:04:16 | URL | K.I #-[ 編集]
私もです
>Klさま
 ありがとうございます。私もです。ノストラは同じ雑誌で私も連載してました。本当に惜しい絵師を失いました。
 数分前に私の集英社の担当さんから電話があって訃報確認しました。
 51歳心筋梗塞だったそうです。
2007/12/07(金) 20:18:58 | URL | 貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
「女フィスト」からのファンでした。
魅力的な絵で素人からすると時間がかかるのだろうなと思っていましたが、速いと知り驚きです。
ご冥福をお祈りします。
2007/12/08(土) 15:36:58 | URL | 細田 #-[ 編集]
上には上が
>細田さま
 名人の上を行く名人
 達人でらしたと思います。
 いや、達人と名人どっちが上かよくわかりませんが(汗)ニュアンスお察しください;
 まことに得がたい方を亡くしました。
 コメントありがとうございます。
2007/12/08(土) 15:48:52 | URL | 貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
亡くなってから気づく
初めて知ったのは「ブリキ細工のトタン屋根」でところどころ見せられる艶画とでも言ったらよいのか・・・とにかく圧倒されていました。直線で書いたかのような老写真家の体躯に迫力を感じたり、艶やかな肢体でドキドキ・・・。もっと作品を見たかった。
2007/12/10(月) 23:44:57 | URL | 満腹亭胃拡張 #-[ 編集]
私もです
>満腹亭胃拡張さま
 私も若いころ見て本当に圧倒されました。
 群を抜く描写力だったと思います。
 昨夜12月10日は集英社のパーティだったのですが、訃報をご存じない編集さんや作家さんいっぱいで、まだ以外に広まってない情報のようです。
2007/12/11(火) 00:43:12 | URL | 貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
良い話だなあ・・・・(涙)
メモリアル作品集が出てから「え!亡くなったの!!」などと驚いているヲイラは、うつけ者です。

三山先生は、きっと美大とか出てるのだろうなあ・・・などと作品を読みながら考えた事がありました。
今年48になる男の、20代の頃の思い出です・・・・
2008/02/14(木) 09:54:22 | URL | ぬうぼマン #xtc7akX2[ 編集]
同世代でいらっしゃいますね
>ぬうぼマンさま
 コメントありがとうございます。
 私は49歳です。ほぼ同世代でいらっしゃいますね。
 春には追悼特集本が出る(予定)のようで、私も山田氏もコメントを寄せております。無事刊行された際はまたブログでもお知らせいたしますね。
2008/02/14(木) 13:05:20 | URL | 貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
さっき知りました。
さっき、高寺さんのツイートを見て三山さんが亡くなった事を知りました。51は若すぎですね。
ここの文章読んで、凄く良いな、と思ったんでリンクしちゃいました。素敵な話、ありがとうです。
2012/04/16(月) 07:21:26 | URL | コバヤシオサム #-[ 編集]
ありがとうございます
>コバヤシオサムさま
 なんと、いつの間にか三山先生の亡くなられた歳より二年も過ぎてたことをいただいたコメントで今気づきました;
 本当に若すぎましたね。もったいないです。
 こちらこそありがとうございます。
 先生のこと、語り継いでいきたいです。
2012/04/17(火) 22:47:26 | URL | 山本貴嗣 #pmWGJPUI[ 編集]
知りませんでした。。。
カンブリアンという三山さんのマンガを読んでて、最近の様子を調べたところ、お亡くなりになった事を知りました。
僕が入院してた頃に亡くなってたようです。
蔵書を整理するつもりで最後にもう一度と読んだのですが、ずっと手許に残しておこう、と思い直しました。

山田先生とのいい話ありがとうございました。
合掌
2013/08/13(火) 23:57:07 | URL | afro #GutDo4oE[ 編集]
Re: 知りませんでした。。。
>afroさま
 執筆多忙のため御返事遅くなり申し訳ありません。
 けっこうご存じないファンの方が今でもおいでなようです。
 お役に立てましたなら幸いです。
 コメントありがとうございました
2013/08/21(水) 15:21:10 | URL | 山本貴嗣 #-[ 編集]
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